連載コラム 都心*街探訪

2018年6月14日

第48回
JRの新駅開業計画で期待が高まる『泉岳寺』

文:荒井直子 撮影:佐藤真美

江戸の景勝地として親しまれた場所

泉岳寺山門

日本でもっとも名の知れた物語のひとつ『忠臣蔵』。江戸時代、実際に起こった赤穂事件を元にした歌舞伎の演目『仮名手本忠臣蔵』から世に広まったもので、その後も映画やドラマ、舞台などさまざまな場所で繰り返し作品化され、時代を超えて国民的な人気を集め続けている。その物語の主人公、赤穂浪士たちが眠る地であり、現在も多くの歴史好きが集まる場所が港区高輪の寺院『泉岳寺』。寺の名がそのまま最寄りの駅名にもなっているため、歴史に詳しくない人にもその名は知れ渡っているだろう。

泉岳寺のある港区高輪の北側エリアは、隣接する港区三田とともに江戸時代は武家屋敷と寺社が集まっていた場所だった。江戸に入ることを意味していた「大木戸門」跡が元の東海道、現在の第一京浜沿いに残されていることからもわかるように、当時は江戸市街の南端に位置する郊外の町。伊皿子坂の高台からは品川の海を一望でき、とくに月夜の眺めが美しく“月の岬”と呼ばれる景勝地として江戸市民に親しまれていたという。静かで環境の良い場所だからか武家の別荘とされる下屋敷や中屋敷も集まり、なかでも熊本藩細川家の中屋敷は魚籃坂と天神坂の間のほとんどを占めるほど広大なものだった。

こうした郊外の静かな町の風景は明治維新後、ほかの武家屋敷街と同様に諸藩の屋敷が別の用途に転用され、大きく風景を変えることになる。また、近代化で東京の街が拡大するに従い“郊外の町”から“都心の町”として位置づけも変えることに。しかしながら住宅地としての良質な環境はそのままいかされ、現在では重厚な高級マンションや広い敷地を持つ邸宅が立ち並び、都心を代表する高級住宅地として不動の地位を築いている。

2020年に山手線・京浜東北線の新駅が暫定開業予定

魚籃坂

高輪エリアの北部を通る鉄道路線はもともと、都営地下鉄浅草線・京浜急行電鉄線「泉岳寺」駅のみで、都心のわりに交通の便にはあまり恵まれていなかった。しかしながら2000年に東京メトロ南北線・都営地下鉄三田線「白金高輪」駅が開業すると利便性が格段に向上。住まいの都心回帰現象の時期とも重なり、とくに白金高輪駅に近い国道1号線沿いには次々と超高層マンションが立ち並ぶようになった。

そして今もっとも大きな期待が寄せられているのが、JR「田町」駅と「品川」駅の間に山手線・京浜急行線の新駅が計画されていることだろう。「泉岳寺」駅は地下の駅ということもあり駅周辺には目立った駅ビル等の商業施設はなく、駅としての存在感は控え目だった。ところがJRの新駅が予定されているのは「泉岳寺」駅から南東約300mの場所。さらに、新駅周辺はオフィスやホテル、商業施設の入る超高層ビル7棟を含めて再開発が予定されていることから、泉岳寺駅周辺の風景も大きく変わることは間違いないだろう。

新駅は今のところJR「品川新駅」という仮称が付けられ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのタイミングに合わせて暫定開業を予定。「泉岳寺」駅も利用客が大幅に増えることが予想されていることから、今後ホームの増築工事と隣接する東側の敷地を一体的に再開発することが決定している。

これまではお隣のJR「品川」駅の陰に隠れていた感のある「泉岳寺」駅周辺。既存の“高輪ブランド”とも相まって、今後さらに評価が高まることは間違いないだろう。