2016年12月15日
第30回
都心とは思えないマイペースな町「小石川」
文:荒井直子 撮影:佐藤真美
山の手エリアの最東端
文京区は東京23区で唯一、敷地のほぼ全域が山手線の内側にすっぽりおさまっている区である(駒込‐巣鴨間でほんの少しはみ出しているが)。つまり、都心のなかの都心といえる区なのだが、時代に合わせてハイスピードで変化していく港区や渋谷区などに比べると、どことなくマイペースな印象がある。というのも、区内にはJRの駅がひとつもなく、ひいては目立ったターミナル駅がないということでもあり、時代の波を真正面からかぶらずにきたからかもしれない。今回、訪れた小石川エリアも間違いなくそんな独特な文京らしさを感じる町といえるだろう。
隣接する本郷エリアとともに山の手台地の東端に位置する小石川エリアは、波打つような起伏が縦横無尽に続く文京区らしい地形。坂の上にあたる高台には近隣エリアと同様、江戸時代には武家屋敷が点在していた。代表的な場所でいえば、現在の通称・小石川植物園(正式名称は東京大学大学院理学系研究科附属植物園)。ここには、古くは館林藩松平家の下屋敷があり、その後、5代将軍・徳川綱吉の時代に麻布にあった幕府の薬園が移転してきて現在の植物園の起源となった。
また、現在の文京区立教育の森公園はもともと徳川光圀の弟である松平頼元の上屋敷があったところであり、東京教育大学(現在の筑波大学)のキャンパスを経て現在の姿になった。武家屋敷の面影は現在も残っており、公園に隣接する占春園は上屋敷時代の庭園の名残。現在は筑波大学附属小学校の自然観察園になっており、一部は一般にも開放されている。このエリアならではの自然の地形を生かした起伏、うっそうと生い茂った巨木、笹の葉に隠れそうな小道など、とても東京のど真ん中とは思えない野趣あふれる風情が楽しめる。
都内随一の文教エリア
前述のように、武家屋敷跡の広大な敷地を利用した学校や豊かな緑が多いことから、都心でも有数の文教エリアとなった小石川。お茶の水女子大学付属幼稚園や小学校、筑波大学附属小学校、東京学芸大学附属幼稚園竹早園舎・竹早小学校など幼少期から通える国立の学校も多く、幼稚園や小学校受験に臨む家庭が多く集まるエリアにもなっている。もちろん、それら国立の附属中学校や高等学校をはじめ、私立の中学校や高等学校も多い。公立以外の選択肢がどのライフステージにおいても多く揃っていることは、結果的に幅広い年代の子育て世帯が多く住むことにもつながっている。
こうしたエリア特性もあり、東京メトロ丸ノ内線「茗荷谷」駅を最寄りとするエリアは幹線道路沿いを一歩入るとどこも落ち着いた住宅街を形成していて、思いのほか一戸建ても多い。小石川4丁目と5丁目の間に通る播磨坂は区内有数の桜の名所で、周囲はヴィンテージ・マンションと呼べるような落ち着いた雰囲気の集合住宅も多い。坂沿いはカフェやレストランなどおしゃれな店も多く、落ち着いた文京マダムたちがランチを楽しむ姿も日常の風景だ。
一方、播磨坂を下ると様相が少し変わり、千川通りを東京メトロ丸ノ内線・都営地下鉄三田線・大江戸線「春日」駅、東京メトロ丸ノ内線・南北線「後楽園」駅方面に向かうと、比較的新しい高層マンションが増えてくる。こうした新しいマンションは都営地下鉄大江戸線や東京メトロ南北線の延伸後、交通利便性がさらによくなったこと、また、都心回帰の流れのなかでできたマンションだろう。
千川通りの周辺は印刷業が盛んだった頃の名残があり、今でも印刷会社の看板を多く見かける。また、春日駅の近くには「こんにゃくえんま」で知られる源覚寺もあり、周辺は庶民的な商店街になっている。この周辺は下町のような風情が残っており、山の手と下町の境にあることを実感する。
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