連載コラム 都心*街探訪

2018年3月15日

第45回
山の手の下町『武蔵小山』の新たな出発

文:荒井直子 撮影:佐藤真美

“東洋一”と称された商店街が町のシンボル

武蔵小山商店街パルム

現在の東京23区を大雑把に区切ると、中心部から東・北方面が下町、都心部と西・南方面が山の手といわれることが多いだろう。しかしながら、実際にはそこまで単純に区切れるものではない。もちろん地理的な区分はできるかもしれないが、東京という町の成り立ちや成長過程、そして現在の一般的な感覚を含めて考えると、実際には山の手と下町の区別には曖昧な部分も多く、その典型的な町のひとつが『武蔵小山』ではないだろうか。

武蔵小山は品川区の北端に位置し、駅北側にほんの数分も歩けば目黒区。高級住宅地の多い両区にまたがることもあり、人気住宅地のひとつとして地位を確立している。また、完成当時“東洋一”と称された武蔵小山商店街『パルム』の存在も有名だ。しかしながら、こうした賑わいがうまれたのはさほど古い話ではなく、大正末期の頃。それ以前は東京に出回るタケノコのほとんどをこのエリアから出荷していたほど畑や竹藪に覆われるのどかな郊外の町だったそうだが、1923年に『小山』駅(現在の武蔵小山駅)が開業し、同年に起こった関東大震災の影響で都心部や下町から多くの人が移り住むようになったことで飛躍的に人口が増加。しだいに住宅地としての地位を確立していった。

武蔵小山周辺は武蔵野台地の東端にあたり、地理的には「山の手」といえるエリア。しかし、パルム商店街を筆頭に庶民的な商店街がいくつも集まっていること、また、小山八幡神社と三谷八幡神社の例大祭「武蔵小山両社祭」が大いに賑わうこと、そして天然温泉が楽しめる銭湯が残されていることなどから、どちらかというと庶民的な雰囲気が色濃く、“山の手の下町”という印象が強い。さらに、目黒区側にある林試の森公園など自然環境にも恵まれていることからも、子育て世代から高齢者まで幅広い世代が安心して住める温かな環境が揃っているといえるだろう。

駅前大規模再開発で将来も期待大

林試の森公園

そんな庶民的な武蔵小山の町の様相が、2000年前後から少しずつ変化を見せている。その筆頭が、2000年に「武蔵小山」駅を通る東急目蒲線が二路線に分割されて東急目黒線に変わり、同時に東京メトロ南北線、都営地下鉄三田線との相互直通運転を開始したことだろう。以前の目蒲線というと、品川区、目黒区、大田区、世田谷区の住宅街の間をコトコト走るのどかな路線というイメージだった。それが、乗り換えなしに大手町や日比谷、内幸町、永田町といった都心のオフィス街をはじめ、六本木・麻布エリアにもダイレクトにアクセスできるようになり、一気に都心が近づいた。

その流れも関係しているのだろう、武蔵小山駅も2006年にはホームが地下に入り、2010年には立派な駅ビルも誕生。駅周辺はモダンで都市的な景観に変化した。そして今、駅前では大規模再開発が進行中。完成すると地上41階建てのタワーマンションを主に、その下には40店舗のショップが入る商業施設も誕生する予定だ。武蔵小山の庶民的な雰囲気とタワーマンションの組み合わせには意外性もあるが、やはりこの地に計画されることだけあり、商店街パルムとそこに培われた文化との融合することを目指して計画されている。完成後には新たに500世帯近い住民がこの町に加わることになり、商店街もまた違った賑わいを見せることになるだろう。人気エリアであることに胡坐をかかず、新しい魅力を肉付けしていくことになった武蔵小山。山の手エリアの庶民の味方の町がどのような発展をするのか、今後も目が離せない。