2016年11月15日
第29回
国際色豊かな高級住宅街「広尾」
文:荒井直子 撮影:佐藤真美
世界各国の大使館が集まる町
広尾という地名からイメージされるものには、どことなく華がある。その理由はといえば、大使館が集まるインターナショナルな雰囲気、それにともなう行きかう人々の国際色豊かな様相から来ていることは間違いないだろう。 こういった現在の広尾のイメージのルーツは、明治時代以降にうまれたもの。それ以前の広尾は、現在の天現寺交差点の西側に広大な広野があり、江戸後期に描かれた『江戸名所図会』では「広尾原」として広野が描かれていたほど。草摘みや月見などを楽しめる場所で、都市近郊の行楽地に近い存在だったという。一方、広野より東側の高台は旗本などの下屋敷が配置されており、江戸の町としては西側の端にあたる場所だったといえるだろう。
こうした武家屋敷跡が明治以降、大使館に変わっていったことが現在の広尾のイメージに由来している。なぜ広尾の武家屋敷が大使館に適していたかといえば、先述のように江戸の西際に位置し、上陸地の横浜と行き来しやすかったことが第一の理由。また、当時、外国からの渡航者の受け入れ先を寺院が担うケースが多く、周囲に大寺院が多く点在していたこともその理由と言われている。結果、渋谷区側にはチェコやオマーンなど、港区側にはノルウェー、フィンランド、スイス、フランス、ドイツ、カタール、ウクライナ、アルゼンチンなど、多くの大使館が開設された。インターナショナルスクールも存在することから駐在外国人が家族で近辺に住むケースも多く、おのずと国際色豊かな雰囲気が育まれていったのだ。
揺るぎない高級住宅街としての地位
現在の広尾という住所表示だけでみると渋谷区に位置するが、もともと広尾と呼ばれていたエリアは渋谷区・港区にまたがっていた。また、最寄りの東京メトロ日比谷線「広尾」駅自体は港区南麻布に位置することもあり、住居表示でいう港区南麻布側も「広尾」という感覚かもしれない。外苑西通り沿いにある広尾駅周辺だけをみると、銭湯のある商店街があったり、コンビニエンスストアやドラッグストアの姿もあり庶民的な雰囲気もあるが、駅から少し歩くと間もなく高級住宅街の姿を見せ始める。とくに渋谷区広尾2丁目、3丁目、港区南麻布4丁目、5丁目の高台には邸宅や落ち着いた低層集合住宅が立ち並ぶ。広尾の高級感を象徴するマンションはいくつもあるが、代表的なものが日本赤十字社医療センターの一部の土地に1980年代後半に建てられた集合住宅『広尾ガーデンヒルズ』だろう。今では、築年数が経っても資産価値が落ちない“ヴィンテージマンション”の代表格としても知られ、中古マンション市場においても別格な存在。立地の良さに加え、維持管理体制もしっかりしていることも高く評価されている。また、広尾には外国人向けの高級集合住宅として知られる『ホーマットシリーズ』が渋谷区側、港区側どちらにもある。このことも、高級住宅街の証といえるだろう。
一般的に高級住宅街というと落ち着いた大人の町のイメージが強いが、広尾の様子は少し違う。というのも、広尾の町は小さい子どもがいる家庭が住みやすい環境が整っているからだ。若葉会幼稚園をはじめとした名門幼稚園、私立小学校の最高峰のひとつである慶應義塾幼稚舎、私立中高の男子御三家として知られる麻布学園、聖心女子大学や東京女学館など有名私学が多く集まるうえ、有栖川宮記念公園の自然も豊か。さらに、日本赤十字社医療センター、都立広尾病院、北里大学北里研究所病院など有名な大病院も多い。実際、広尾の町には小さな子どもの微笑ましい姿が多く見受けられ、高級感のなかにも温かみと優しさが感じられる。
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