2017年9月14日
第39回
いつの時代も交通の要所として存在感を放つ『品川』
文:荒井直子 撮影:佐藤真美
鉄道網によって大きく飛躍し続ける町
現代において、不動産の価値を測るうえでもっとも重要な指標は交通利便性といっていいだろう。どんな路線がいくつ通っている駅なのか、特急や急行が停まる駅なのか、どこにダイレクトに行けるのかといった利便性の良し悪しが不動産価値や需要に直結し、ひいては不動産価格や賃料に大きく影響しているのは明白だ。その時流からみると、交通利便性の高い都心のなかでも、とくに素晴らしいスペックを備えているのが「品川」だろう。
現在のJR『品川』駅の歴史は非常に古く、明治初期に東海道線の駅として開業し、同時に開業した横浜の桜木町駅とともに日本で一番古い鉄道駅のひとつに数えられる。当時は海岸線ぎりぎりに駅舎があったそうで、現在、高層ビル群のある港南エリアは完全に海の中。のどかな海辺の駅だった。その後、東海道線に加え山手線、京浜東北線、総武線快速、横須賀線と徐々に路線が増え続け、昭和期には名実ともにビッグターミナル駅として成長した。
そんな品川駅がさらに躍進するきっかけとなったのは、2003年の東海道新幹線・品川駅の開業だ。開業当初は一部列車の停車駅だったが、2008年にはすべての列車が停車するようになり、新幹線の駅としての存在感も増していった。
それと前後するように、この時期に駅東側の港南エリアの再開発が大々的に進行。1994年の『品川インターシティ』を皮切りに次々と超高層のオフィスビルとタワーマンションの建設が進み、オフィスワーカー、居住者ともに飛躍的に増加した。それは駅の乗降人数の統計にも表れていて、2000年前後から大幅に増加しながら、2015年の上野東京ライン開業を機に一段と拍車がかかり、ついに2016年度にはJR東日本内においてJR『渋谷』駅を抜いて乗降者数第5位に躍り出た。今後は中央リニア新幹線の東側の始発駅となることも決まっており、将来性においても大いに期待される町であることは間違いないだろう。
東海道五十三次の「品川宿」を礎に。
はるか中世の頃から武蔵国を代表する港町として栄えていた品川だが、現代のきらびやかな姿の礎となっているのはやはり、「品川宿」として東海道五十三次の宿場のひとつとなったことが大きいだろう。品川宿は甲州街道の内藤新宿や日光街道の千住宿などとともに“江戸四宿”といわれた重要な場所。なかでも、品川宿はもっとも重要視された東海道のひとつめの宿場であり、重要な西側諸国に通じる玄関口としてほかの四宿以上の存在感があり、大いなる賑わいを見せていたという。
といっても、現在の品川駅周辺を歩いても宿場町の様相はどこにも残っていないように見える。それもそのはず、宿場町が形成されていた場所は現在の京浜急行本線「北品川」駅・「新馬場」駅・「青物横丁」駅の周辺で、「品川」駅から見ると駅1つ〜3つ分離れている。かつての賑わいの面影を求めて歩いてみたが、超高層ビルが密集する品川駅周辺との違いは思っていた以上に大きい。目黒川沿いの荏原神社周辺は緑も多く、情緒あふれる風情ある町並みが残っている。また、ヒューマンスケールの狭い道沿いには老舗の煎餅店や海苔店、金物店、食堂などが立ち並び、その合間に新しいビルやコンパクトなマンションも同居。“現代の品川”と“品川宿”がぎりぎりなところでせめぎ合っているように見える。現代の風を受け入れつつも歴史を残そうとしながら共存する姿に、町が息長く成長していく過程を垣間見た気がした。
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