連載コラム 都心*街探訪

2015年1月15日

第7回
変化の止まない街「六本木」

文:坂根康裕 撮影:富谷龍樹

イメージの刷新

ビルの高さでは都内一「東京ミッドタウン」

「六本木ヒルズ MORIタワー」51階はメンバーシップ制「ヒルズクラブ」専用フロアである。イタリアン、中華、寿司など多彩なレストラン&バーがフロアを一周するように取り囲んでいる。その日の気分で、食のジャンルあるいは都心の眺望を自由に選べるレイアウトなのだ。「ヒルズ族」なる言葉に代表されるように、「六本木ヒルズ」はラグジュアリーやセレブといった印象を街に植え付けた。国際性や先進性といったキーワードも加えてよいだろう。さらに付け加えるならば、ビルの高さが都内一の「東京ミッドタウン」や「国立新美術館」も相次ぎ誕生し、繁華街として知られていた六本木は都内で類を見ない「アートの街」としてもイメージが定着しつつある。

そもそも六本木は、新宿や渋谷あるいは池袋、赤坂などとはまったく違った個性を備えていた。歴史をさかのぼれば、「防衛庁」(前「陸軍連隊」)や「テレビ朝日」、六本木交差点近くの「俳優座劇場」といった存在がその源泉にあるようだ。郊外と都心を結ぶ六本木通りは、昔から物流の要であったという。道路に沿って飲食店が立ち並んでいる様子は今のそれと変わらないが、戦時中は兵隊町として有名だったらしい。モダンな風俗も三河台(六本木4丁目辺り)が発祥。街の色というものは、大正から昭和初期に存在した施設の影響がよほど大きいことを思い知らされる。そのように考えれば、逆に、わずか10年ほどで街のイメージを転換させたことは偉業に近いといえる。数十年に一度あるかないかの大規模な開発が集中したこと、かつ来街者を絶やさないオペレーションが奏効しているのだろう。

都心の特等席

「六本木ヒルズ」展望台から虎ノ門方面を臨む

六本木アドレスは都心(溜池)方向から1丁目がはじまり、六本木通りを挟むように西に向かって7丁目まで広がっている。鉄道駅は東京メトロ日比谷線、都営大江戸線の交差する「六本木」駅のほかに、東京メトロ千代田線「乃木坂」駅、同南北線「六本木一丁目」駅が所在。地理的な特徴は何といっても地勢(地形)であろう。「アークヒルズ」(赤坂)近辺からはじまる尾根状の高台地は、西の南青山、広尾まで連なっていく。概ね標高30メートル前後の隆起である。一方、六本木住所の東南に位置する芝、三田あたりが標高10メートル以下。東京湾からみれば、ちょうど六本木界隈が一段盛り上がって見えるはずだ。「六本木」に立つタワーマンションの眺望がひときわ見晴らしがよい理由がご理解いただけると思う。

六本木の再開発ラッシュはいまだ継続中。旧IBMビル(3丁目)は解体が終わり、現在新たなビルが建設中である。「六本木」駅南に広がる5丁目にも再開発の計画がある。都心の特等席は、いまなお変貌の過渡期にあるのだ。類まれな地形上の利点を最大化し、東京の魅力の底上げに貢献してもらえるよう願うばかりである。