連載コラム 都心*街探訪

2017年4月13日

第34回
“生きた商店街”がいくつもある町「高円寺」

文:荒井直子 撮影:佐藤真美

個人商店が元気いっぱいの町

純情商店街

少し前の話になるが、地方出身者から「東京には昔ながらの商店街が地方都市よりもずっと多く残っている」と言われたことがある。確かに、大型ショッピングセンターにとってかわられたシャッター通り商店街が多い地方都市に比べると、生き生きとした商店街が多いと思う。まさにそんな“生きている商店街”がいくつも存在する町が高円寺だ。

もっとも代表的な存在なのが、JR中央線・総武線『高円寺』駅北側の商店群『高円寺純情商店街』だろう。作家のねじめ正一さんの直木賞受賞作品『高円寺純情商店街』のモデルとなったことでも知られており、作品の発表以降に元の名称『高円寺銀座商店街』から現在の名に改名されたという経緯を持つ。この商店街は細い道の両側に小さな商店が連なっているという市場のようなスケール感で、精肉店や青果店、金物店や生地店など昔ながらの商店がひしめき合っている。それらの間に新しいカフェやヘアサロンなどおしゃれ感のあるショップも混在し、不思議なバランス感を保っている。駅前の商店街といえばどの町も似たような店が多くみられる現代だが、ここはまさに“個人商店の集積”といった様相。もちろん名の知れたファーストフード店やドラッグストアもあるが、その存在感が薄く見えるほど個人商店が元気いっぱいだ。

純情商店街の西側には早稲田通りまでのびる『高円寺庚申通り商店街』、純情商店街を挟んだ東側には『高円寺あづま通り商店会』もあり、駅の北口側だけでも商店街の充実度には目を見張るものがある。

若者を引きつけるカルチャーの集積地

ルック商店街

高円寺の商店街の充実ぶりはこれだけで終わらない。駅の南側に出ると、まずはアーケード街『高円寺パル商店街』。ここは比較的チェーン店などの大資本の店もみられるが、それでも個人商店もしっかりと共存。この商店街は、1957年に始まった『東京高円寺阿波踊り』発祥の地。町おこしとして始まった祭りは瞬く間に浸透し、現在では高円寺の代名詞のひとつにもなっている。

アーケードが途絶えたところから東京メトロ丸ノ内線『新高円寺』駅のある青梅街道まで伸びる商店街が『高円寺ルック商店街』。こちらは生活必需品の多い北側の商店街とは異なり、ファッションや雑貨などのショップが多く、とくに古着屋が集まっていることで有名。レトロなファッションを中心に、カジュアルで力の抜けた雰囲気のファッションアイテムを扱うショップが多数集まっている。休日には古着屋目当て若い人たちが多く集まり、まさに古着の聖地といった雰囲気だ。古本や音楽を扱う店や雑貨店も多く、見ているだけで楽しくなる街は、中野・高円寺・西荻周辺で育まれてきた中央線カルチャーの雰囲気を存分に味わえる場所だ。

ざっと挙げただけでこれだけの商店街があるように、駅周辺は商店街の存在が絶大だが、商店街をほんの少し横道にそれるだけですぐに一戸建てや中低層のアパートやマンションが立ち並ぶ。というのも、もともと高円寺は関東大震災後に新興住宅街として人が集まるようになって以降、広く一戸建ての住宅街が形成されていった場所。当時は郊外という位置づけだったようだが、新宿からJR中央線で2駅という利便性の高い立地は、今では郊外というより都心の一部といっていいだろう。杉並区のなかでは都市的な要素が強いほうだが、それでいてどことなくのんびりとした空気感も漂い、都市と郊外のいいところを絶妙なバランスで併せ持っている町といえるだろう。