2017年10月12日
第40回
時を経て再評価され始めた『北千住』
文:荒井直子 撮影:佐藤真美
宿場町「千住宿」を礎に
東京23区において、住みたい町も憧れの町も、長らく西高東低の時代が続いていた。それは当然のことながら不動産価格にもあらわれていて、単純に東京駅からの距離を利便性の指標とした場合、同じ距離圏であっても東京駅東部・北部に比べ、南部・西部の価値が高いのは明らかだった。
その状況に少しずつ変化がみられるようになったのは、2000年代に入って少し経った頃からだろうか。背景には、都内各地で進む再開発や鉄道路線の延伸や乗り入れなどの都市整備をはじめ、価値観の多様化によってさまざまな指標で価値を判断する人が増えてきたこと、伝統的な文化や歴史に新鮮味を感じる世代の出現で日本的な風土の強い下町が見直されてきたこと、さらには経済的にも物質的にも成熟社会が訪れイメージや憧れよりも合理的で実用的なライフスタイルを好む堅実な層が増えてきたことなど、いくつもの要因が絡まっているように思う。そうした時代の歯車がかみ合ってから再び注目を集めるようになった町のひとつが、『北千住』だろう。
“再び”というのも、北千住の歴史は非常に古く、もともと存在感のある町であったから。古くから荒川の恵みを受け、中世の頃には水運の要所として発展していた。そして千住の地を歴史の表舞台に引き出したのは、前回、訪れた品川と同様、江戸時代に五街道の宿場となったことが大きいだろう。「千住宿」と呼ばれたこの地は、日光街道と奥州街道それぞれの最初の宿場町として栄え、品川と同じく「江戸四宿」のひとつに数えられていた。当時の宿場は現在のJR常磐線・東京メトロ千代田線・東京メトロ日比谷線・東武伊勢崎線(東武スカイツリーライン)・つくばエクスプレス「北千住」駅のある足立区から、隣の荒川区にあるJR常磐線・東京メトロ日比谷線・つくばエクスプレス「南千住」駅周辺まで広く伸び、多くの旅人たちとそれを対象とした商いで賑わっていたという。現在、その面影を残すところは少なくなっているものの、北千住駅西口には「宿場町通り」という名で旧日光街道が残り、江戸時代後期に建てられた元紙問屋の建物「横山家住宅」など風情ある建物も保存され、宿場町らしい風情も十分に感じられる。
大学のキャンパスが集まる新・学生街。
その北千住がなぜ再び注目を集めるようになったかといえば、やはり現代の不動産価値を判断する最大要因である“交通利便性”が大きく起因しているだろう。前述のとおり各社の複数路線が通ることはもちろん、近年どの鉄道でも増えている“相互乗り入れ”も多く、感覚的には路線数以上の利便性を感じるほど。それぞれの路線が都心のターミナル駅やオフィス街に直結し、千住宿さながら、現代においても誰もが認める交通の要である。また、駅周辺には大型商業施設や庶民的な商店街も多く、買い物の利便性にも異論がない。
さらに近年、北千住の新しいカラーとなりつつあるのが“学生街”としての様相だ。足立区は企業の撤退や公立校の統廃合を機に積極的に大学誘致に乗り出し、北千住駅周辺だけでも東口の東京電機大学を筆頭に、東京藝術大学、放送大学など5大学のキャンパスが開校。平日・休日問わず若い学生たちでにぎわう街となっている。
こうした町の活気は間違いなく町の“将来性”に直結するのだろう。リクルートSUUMOの “ 穴場だと思う街”部門においては、2015年・2016年・2017年と3年連続 第1位に。さらに、本家の“住みたい街”ランキングにおいても、2015年は28位とさほど話題にならなかったのが、2016年には18位、2017年には17位と、じわじわと順位を上げてきた。中世から培われた町の歴史・奥行きとともに、時代に合った町の進化と現代の価値観が合致した北千住の期待値は、今後ますます目を離せない。
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