2016年3月15日
第21回
コーヒーとアートの町「清澄白河」
文:簀河原 由朗 写真:佐藤真美
掘割(運河)から始まった町

最近、カフェの町として知られている「清澄白河」。週末だけでなく、平日でも若い世代のコーヒーファンが訪れている。街を歩くと、カフェだけでなく多くのお寺や昔ながらのお店、アートギャラリーに出会う。どんな歴史を経てきた町なのだろうか。
徳川家康は、行徳の塩を江戸市中に運び込むために、もともとの低湿地を活かして掘割(運河)を計画した。その最初に整備されたのが清澄地区を流れる小名木川だ。その小名木川と仙台堀川、隅田川に挟まれた三角のカタチをした町が、「清澄白河」である。江戸時代は、川沿いには船大工をはじめとした町民が住み、当時は船が物流の中心であったため蔵が多かった。三角のカタチの内側には大名屋敷やお寺が建ち並び、ひとつひとつが大きな区画。たとえば松平定信の菩提寺である「霊巖寺」は現在の三好一丁目をカバーするくらいの広さだった。そういうこともあり、隣町の門前仲町に比べると静かな町だったようだ。ちなみに、お寺が多いのは1657年の明暦の大火で江戸市中の多くのお寺が焼け、まだまだ発展途上のエリアだった「清澄白河」に移したためと言われている。
江戸時代から現在に続く清澄白河の代表的なランドマークは「清澄庭園」。江戸の豪商紀伊國屋文左衛門の屋敷跡とも伝えられている。明治時代に岩崎弥太郎が貴賓招待の場として造園に着手、庭園の泉水に隅田川の水を引き込むなど大きく手を加え、その後の工事によって現在の姿になっている。
アートやカフェカルチャーが息づく町へ

昭和後期の「清澄白河」は、森下駅と門前仲町駅に挟まれて、どちらの駅を利用するにも遠く不便な立地。通り沿いにはビルなどがあるものの、住宅やお寺、小さな工場が混在する町で注目度が高いエリアとは言い難かった。その「清澄白河」が、平成になって少しずつ変化を始める。 1995年に、清澄白河駅から徒歩14分の場所に「東京都現代美術館」がオープン。「清澄白河」は、アートの町として知られるようになる。そして、「東京都現代美術館」周辺にアート系のギャラリーが増えていった。その理由には掘割(運河)の町「清澄白河」の歴史も大きく寄与している。掘割沿いには倉庫が多く建っていたが、輸送の中心が陸路に移ったことで空き倉庫が増えており、ギャラリーの多くは倉庫をリノベーションする形でつくられていった。倉庫は、柱が少なく天井が高いため大きなアート作品を展示しやすいという利点もあったのだ。
2000年、2003年に相次いで都営大江戸線、東京メトロ半蔵門線の駅が登場すると、「清澄白河」が大きく変化を遂げていく。2006年に白河3丁目の同潤会清砂通アパートが再開発で30階以上を含むマンション群に建て替えられたことを機に、町には高層マンションが増えた。
2014年ごろから、「清澄白河」にコーヒー豆や淹れ方をこだわるカフェが登場。そして、2015年にアメリカ西海岸で人気の「ブルーボトル コーヒー」の日本1号店が出店した。その理由は、創業者兼CEOが本社のあるオークランドと清澄白河の雰囲気が似ていると感じたこと、住宅や寺が多く空が抜けていること。続々と、海外の人気コーヒーチェーンや日本生まれの個性的カフェも生まれ、「カフェの街」として本格的に注目されるようになる。カフェは倉庫を改装したリノベ店舗が多い。煙や匂いの出るコーヒー豆の焙煎を行うカフェには、ギャラリーと同様に天井が高くて広い場所が適している。この町にカフェが増えた理由のひとつも、空き倉庫が多かったということ。江戸時代からの歴史の糸がつながっていたのだ。
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