連載コラム 都心*街探訪

2015年12月15日

第18回
古くて新しい街「月島」

文:坂根康裕 撮影:富谷龍樹

古参の湾岸エリア

もんじゃ店が立ち並ぶ商店街

都心から「東京五輪2020」の開催地となる臨海地区へ向かうには、隅田川を渡らなければならない。「勝鬨橋」や「佃大橋」がそのおもな地上ルートか。たいていの場合はバスなど車両で通過するケースが多いと思うが、ゆっくり歩いてみるとその優雅な景観に驚くのではないだろうか。隅田川の雄大な景色と超高層タワーの立ち並ぶコントラストはまさに湾岸エリアならではのもの。いささか大型車両の通行が気にはなるが、排ガス規制やエコカーの普及に伴い、以前に比べれば空気環境も改善されてはいるようだ。環状2号線が開通した暁には、その通行量はグンと減り、さらに快適になるのだろうか。いろんな意味で将来が楽しみなロケーションである。

佃大橋を渡れば、すぐ「月島」である。通称「もんじゃストリート」は300メートルほどの商店街両側に、びっしりともんじゃ焼き店舗が立ち並ぶ。それだけでも十分個性的な街並みなのだが、同様に横丁の路地空間も印象的。幅2メートル程度の狭い道に、長い年月を経たと思われる木造長屋が残っていて、街の歴史を感じさせる。再開発著しいウォーターフロントのなかでも新旧併せ持った風情は月島が筆頭ではないだろうか。

江戸から明治にかけて、佃の次に生まれたのが月島である。河川が運ぶ泥が沿岸の海底を浅くしたために、大きな船が着岸できなくなったことが埋め立て事業の動機だという。島が竣工して120年以上。地名の由来は「東京湾内に月の岬という観月の名所があったこと」(「中央区」公式サイトより)。晴海や豊洲東雲などがまだ海だったからこそ実現した命名ではないか。

高まる利便と安全性

路地空間

大きな街区を丸ごと刷新するような、例えば豊洲に代表される再開発事業ではなく、比較的中規模の建て替えが進む月島エリアは、今後も幾つかプロジェクトが展開されていくようだ。かつては造船所の下請け工場が集まっていた同地区は今や住宅街としての趣が強い。建物の高度化によって生まれる空地は街の安全性を高め、流入人口の増加が生活利便施設の拡充を促す。月島所在地内の鉄道駅は東京メトロ有楽町線・都営大江戸線「月島」駅のみ。朝の通勤時間帯、新木場方面の車内も、初めての人にはびっくりするくらいの混み様だ。それだけ豊洲の昼間人口が増えたということだろう。更なる発展のために交通インフラ増強の要望は高まるだろう。月島では運河沿いの整備事業も計画されている。親水性の向上は近隣に住む人たちの行動範囲を広げる。高い快適性を備えた空間になるのではないか。