2017年11月16日
第41回
“住みたい町”上位の常連になった『池袋』
文:荒井直子 撮影:佐藤真美
都心も、郊外へも、自在にアクセス
渋谷・新宿・池袋は、ひと括りで語られることも多い都心3大ターミナル駅とその周辺の町。そのなかでは少々、人気の点では遅れをとっている感があったのが「池袋」だろう。ところが近年、“住みたい町”として両エリア以上に注目を浴びているという。その要因を探りに池袋を訪ねてみた。
もともと池袋の周辺は、明治時代後期頃まではのどかな農村が広がっていた場所だった。都心部や下町に比べて都市開発のスタートが遅く、東京という都市サイズが今よりずっと小さかった当時は、“郊外の町のひとつ”という位置づけだったようだ。
その池袋が発展したきっかけはもちろん、現在のJR「池袋」駅の開業だ。1903年に開業した当時はJRのみで、周辺にもまだ森も残っていたような場所だったそうだが、近代化の波に乗って次々と各社鉄道が接続。1980年代にはJR山手線・埼京線、東京メトロ丸ノ内線・有楽町線、東武東上線、西武池袋線が揃う一大ターミナル駅として発展していった。
こうしてみると、渋谷・新宿と同様に発展したようにもみえるが、池袋の位置する豊島区が新宿区・渋谷区に比べると都心から離れていたこともあり、両エリアと比較すると三番手という印象を持たれやすかったのかもしれない。しかしながら、近年はずいぶんと様子が変わってきていて、リクルートSUUMOにおける“住みたい街ランキング2014”においては、前年の13位から3位へと大躍進。その年の1位が吉祥寺、2位が恵比寿だったと聞けば、その注目度の高さは容易に想像できるだろう。以降の統計でも毎年10位以内にランキングし、ここ2年間は7位をキープ。池袋人気はすでに定着しているといえるだろう。
この池袋人気の背景にあるのは、やはり交通利便性の拡充が大きく影響していることは間違いないだろう。2001年にJR湘南新宿ラインが開業し、2006年にはそのホームを兼用する形で東武線直通特急「スペーシア日光・きぬがわ」が運転開始。さらに大きかったのが、2008年の東京メトロ副都心線開業と、その副都心線と2013年から相互乗り入れを開始した東急東横線・みなとみらい線の存在だろう。まさに都心部を縦横無尽に移動できるうえ、関東北部・南部・西部の中・長距離移動の拠点にもなったのだ。前回訪れた北千住と同様、やはり交通利便性の発展と町の注目度・人気は大きく関連しているといえるだろう。
アート・カルチャー・リノベで町のイメージも更新中
現在の池袋は東京都心を代表する町であることは疑いようもない事実なのだが、その池袋を擁する豊島区が、2014年に民間有識者組織「日本創成会議」が発表した全国自治体の将来推計人口から、東京23区で唯一「消滅可能性都市」とされ、大きな波紋を呼んだ。そもそも豊島区はJR東日本エリア内第2位の乗降者数を誇る池袋駅を中心とする行政区であり、その発表には当然のことながら疑問の声も多く聞かれた。しかしながら、それでも豊島区の対応は非常に早く、発表された2014年5月と同月に「消滅可能性都市緊急対策本部」を設置。持続発展都市を目指し、女性にやさしく子育てしやすい環境、アートやカルチャーを基盤にした街づくり、空き家対策などさまざまな施策を打って出た。とくに画家や音楽家、作家や詩人のアトリエが集まり“池袋モンパルナス”とも呼ばれていた池袋周辺はアート・カルチャーと馴染みが深く、池袋ジャズフェスティバルや池袋演劇祭などの文化事業を積極的に開催している。
さらに、空き家対策として始まったリノベーション事業や町のリニューアルもイメージアップに一役買っている。その代表例が、池袋東口にある南池袋公園だ。繁華街に隣接する立地特性もあり、安全・安心の面からも地域住民に親しまれているとは言い難い公園だったが、2016年に美しい芝生広場を中心としたまったく新しい公園に生まれ変わった。こだわりのコーヒーやクラフトビールが楽しめるカフェも併設され、休日にはおしゃれな子連れファミリーやカップル、若い女性たちでにぎわい、町の新しいシンボルにもなっている。今後も池袋駅の周辺では、池袋西口公園と中池袋公園が2019年にリニューアルオープンを予定しているほか、造幣局跡地には約17000m²の新しい公園もオープンし、4つの公園を活用しながら町の賑わいをつくっていく考えだという。成熟した町であっても、ハード・ソフトともに更新し続けていくことが、町の価値の維持・向上につながるのだと実感した。
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