三井の賃貸レジデンス Park Axis 月島マチュアスタイル

オピニオンインタビュー

VOL.02

PROFILE

阪本 節郎

博報堂 新しい大人文化研究所 統括プロデューサー

年齢を重ねても脇役にならない。「新しい大人」たちが文化をつくる。

いくつになっても若々しく、人生を楽しみたいと考える人が多いマチュア世代。40〜60代のライフスタイルや消費行動を研究している博報堂 新しい大人文化研究所では、この世代の人々を「新しい大人」と呼んでいます。「従来のようなシニアが消滅しかかっているなかで、今新しい大人世代が新しい大人文化をつくりだしている」と語る統括プロデューサーの阪本節郎さん。新しい大人=マチュア世代がつくるライフスタイルとはどのようなものなのか伺いました。

April 28 2016
Photo: Katura Komiyama , Text: Kayo Murakami

人生を諦めない「新しい大人」たち

ーー

まず、「新しい大人」とは、どういう人々なのでしょうか?

阪本

端的に言うと、50代、60代でいわゆる中高年、シニアと呼ばれる世代です。しかし、調査するうちに、今までのシニアとは中身が変わってきていることがわかりました。
あるアンケートで、50代、60代に「シニアといわれて自分のことだと思いますか?」と聞いたところ、50代の9割近くが「自分のことだとは思わない」と回答しました。60代になると半数近くになりますが、シニアと呼ばれたいですか?」と聞くとやはり9割近くが「そう呼ばれたくはない」と答えました。このように、今の40〜60代には中高年、シニアという意識はほとんど消えかかっている。そこで、我々はこの人々を「新しい大人」と呼んでいます。

ーー

従来のシニアと「新しい大人」は、具体的にどんな点が異なるのでしょうか?

阪本

「あなたは今までの40〜60代と違うと思いますか?」と質問した調査では、8割以上の人が「違う」と回答しました。では、「何が違うと感じてるのか」を挙げてもらったところ、1位は「年相応にならない」、2位は「若さ」でした。50代になると子どもが独立し、退職も近くなる。社会の第一線から外れつつあるなかで、だんだんと体力が落ちて、健康不安も増していきますよね。そうなったときに、これまでの50代は「年相応にしないといけない」と思う人が多かったんです。しかし、今の50代は違います。医療が進んでいるし、サプリやエイジングケア化粧品もあるから、健康や若々しさを保つことができる。「なんとかなる」と思っている人が多いんです。
つまり、50代という年齢になったときに、本当に諦めていたのが今までのシニアだったのに対し、「新しい大人」世代は諦めていない。積極的に、前向きに、これからの人生を生きていきたいと考えているんです。

初めて若者文化をつくった世代が、シニアの概念を変える

ーー

シニアの意識がなくなっている背景として、世代的な要因はありますか?

阪本

「新しい大人」世代は、団塊(60代)、ポスト団塊(50代半ば〜60代前半)、新人類(50代半ば)世代にあたります。今の60代が若者のとき、初めて男性の長髪やジーンズ、ミニスカートが登場し、フォークソングやビートルズなど新しいカルチャーが次々と海外から入ってきました。団塊世代は数が多いので、一気に広まって若者ファッションを生み出した。
続くポスト団塊世代は、「ポパイJJ世代」と呼んでいるのですが、彼らは初めて「楽園キャンパス」をつくった世代です。学問の場だった大学を、同好会で彼氏彼女を見つける場に変えてしまった。『ポパイ』や『JJ』などが創刊されて自分なりのおしゃれを意識するようになり、サザンやユーミンの曲をかけてドライブデートして……というようなことを楽しんできたわけです。

ーー

自分たちで若者文化をつくった最初の世代が、今の50、60代なんですね。

阪本

そうです。新しい文化をつくり、自分らしさを大切にしてきた最初の世代といえます。自分たちで時代や文化をつくっていくという感覚を当たり前のように持っているので、50歳を過ぎても、今までの中高年シニアとは違う新しいことができるんじゃないかという意識が強いんです。
かつては、子どもが独立すると社会の脇役になって一様に老人に向かっていくのが当たり前でした。しかし、「新しい大人」世代は、やっとできた自分の時間を楽しもうとする意識が高く、自分らしさにもこだわりがあります。50歳過ぎたら「人生下り坂」だったのが、「人生これから」という意識に180度変わり、これまでにない新しい大人文化、ライフスタイルを生み出しているんです。

ーー

新しい大人が生み出す文化とは、どのようなものでしょうか?

阪本

50代は子どもが独立してファミリーをいったん卒業し、夫婦二人という新しい人間関係になります。ようやくできた自分の時間を楽しみたい、これからライフスタイルをつくっていきたいという気持ちがすごくあるんです。自分の好きなことを楽しみたいというのはもちろん、夫婦の時間を楽しみたいというのもあるでしょう。
ヨーロッパにあって、日本になかったのは大人文化です。しかし、「新しい大人」の登場によって、今後日本にも素敵な大人のライフスタイルが根付くのではないかと思っています。ヨーロッパではスポーツカーはリッチなエルダーが乗る車ですし、クラシックのコンサートも大人の二人が出かけるものです。若者が入れないような敷居の高いレストランもたくさんあります。ヨーロッパの文化をつくってきたのは大人の二人なんですね。
今、「新しい大人」世代には、夫婦の時間を大切にする人々が増えつつあります。旦那さんが今までの仕事ばかりしてきた罪滅ぼしとして奥さんを喜ばせるために頑張っている、というケースもあるでしょうけど(笑)。日本は長らく若者が文化の中心でしたが、今後は素敵な大人の二人がつくる文化が広がっていくのではないでしょうか。

ーー

消費のスタイルにも変化はありますか?

阪本

みなさん、とても賢い消費者です。自分が好きなものを知っていますし、人生経験が豊富で目も肥えていますから、ちょっと高くてもいいもの、好きなものを手に入れたいという意識が強いですよね。安いビールをたくさん飲むというよりは、プレミアムビールを買って、おいしい料理と一緒に味わいたいよねという気分になる。アルコール、食品、日用品、化粧品など、新しい商品は40〜60代をターゲットにしているものが多いですね。
もう1つ特徴的なのが、この世代は自分の両親の面倒を見るだけでなく、孫の面倒も見ているということ。今までのシニアは子ども家族に労られるお年寄りでしたが、「新しい大人」世代は面倒を見る側なんですね。たとえば、仕事が忙しい子ども夫婦にかわって、自分で車を運転して孫をテーマパークに連れていき、一緒になって楽しんじゃう、というような。自分が主体的に動いて、お金も口も出す。そんな50代、60代が増えているんです。
上質志向で、パワフルに行動する「新しい大人」たちが増えつつあるなかで、これまでとは違う新しい大人文化が生まれ、市場も広がっていくでしょう。

阪本 節郎(さかもと せつお)

1975年早稲田大学商学部卒業後、博報堂入社。プロモーション企画実務を経て、プロモーション数量管理モデル・対流通プログラム等の研究開発に従事。その後、商品開発および統合的な広告プロモーション展開実務に携わり、企業のソーシャルマーケティングの開発を理論と実践の両面から推進。2000年、エルダービジネス推進室創設を推進。2011年春、発展的に「博報堂新しい大人文化研究所」を設立。所長を経て現在統括プロデューサー。著書に『50歳を超えたらもう年をとらない46の法則』(講談社α新書)、「世代論の教科書」(東洋経済新報社、共著)、『シニアマーケティングはなぜうまくいかないのか—新しい大人消費が日本を動かす』(日本経済新聞出版社)ほか。