三井の賃貸レジデンス Park Axis 月島マチュアスタイル

オピニオンインタビュー

VOL.02

PROFILE

阪本 節郎

博報堂 新しい大人文化研究所 統括プロデューサー

年齢を重ねても脇役にならない。「新しい大人」たちが文化をつくる。

いくつになっても若々しく、人生を楽しみたいと考える人が多いマチュア世代。40〜60代のライフスタイルや消費行動を研究している博報堂 新しい大人文化研究所では、この世代の人々を「新しい大人」と呼んでいます。「従来のようなシニアが消滅しかかっているなかで、今新しい大人世代が新しい大人文化をつくりだしている」と語る統括プロデューサーの阪本節郎さん。新しい大人=マチュア世代がつくるライフスタイルとはどのようなものなのか伺いました。

April 28 2016
Photo: Katura Komiyama , Text: Kayo Murakami

人生を、住まいを、主体的に選ぶ

ーー

「これからの時間を楽しみたい」という意識が高い「新しい大人」世代ですが、住まいについてはどのような意識があるのでしょうか。

阪本

「新しい大人」世代は自分を大切にする人が多く、そういった意識が住まい選びにも影響を与えていると思います。
実は、「新しい大人」に含まれる団塊世代は、その上の世代では見合い結婚が主流だったのに対し、恋愛結婚が主流の世代です。これはとても大きな変化です。かつては周りが決めた相手と結婚していたのが、自分で相手を選ぶようになった。恋愛、結婚にはじまり、ファッション、趣味、働き方など、いろいろなことを主体的に選び、自分らしい人生をつくってきました。
今70代以上の方々は、国ため、会社のために奉公し、苦労されてきた世代で、もともと「私」という意識が弱かった。それに対し、主体的に生きてきた団塊世代以降は、「私」という意識が土台にあります。ですから、今まで仕事や育児にと慌ただしかった分、50歳を過ぎたら自分の時間を豊かにしたいという気持ちがとても強いのでしょう。
そして、「新しいライフスタイルをつくっていきたい」と思ったときに、そのベースとなる住まいを充実させたいと考えるのは男女共通といえます。

ーー

具体的に、住まいに対してどんなニーズを持っていますか?

阪本

子どもが独立したことで部屋は空くし、お金にゆとりも出てくるわけですから、ようやく憧れていた暮らしを送れるようになりますね。子どもの学校や職場に関係なく住みたい場所に住めるし、時間ができるからずっとやりたかったこともできる。そんな状況のなかで、「念願だったライフスタイルを実現できるかがどうか」を重視して、ライフスタイルに合わせた住まいを選ぶ人が増えています。
たとえば、定年をきっかけにリフォームや住み替えをする人が増えていますし、地方に住んでいていても、銀座や歌舞伎座によく行くから都心のマンションにちょっとだけ住んでみたい、という人もいます。都心に住居を残しながら軽井沢などに別荘を持つというケース、奥さんと旦那さんで別々に暮らしながらそれぞれ好きなことを楽しむといったケースなどもあります。
これまではいろいろな制約があって難しかったけれど、今ならちょっと頑張れば実現できる。そこで、長年思い描いたライフスタイルを叶えるための1つの手段として、今の自分にあった住まいを選択する人が増えているんです。

ーー

持ち家か、賃貸かについては、何か傾向がありますか?

阪本

終の棲家をどうするかっていう懸念は誰しも持っていると思うので、お金に余裕があれば、今の家を残しつつ別の場所にマンションを借りるという選択肢もあるでしょう。
最近、沖縄や京都にあるタイムシェア型住居が好調ですが、「旅」と「住む」の中間を楽しみたいという気分はすごく出てきていると感じますね。田舎暮らしと都会暮らしを交互にしたり。余裕があればやってみたいという人が増えているのではないでしょうか。そういう意味では、期間限定で借りられる賃貸の需要はあると思います。

義務からの解放で得られる、豊かな時間

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自身のライフスタイルや住まいについて考えるきっかけとして、子育てや退職などのほかにもありますか?

阪本

50代以降になると、ようやく自分の時間を持てるようになり、新しい人間関係が始まります。毎日家族のためにしていた家事、会社での仕事など、これまでは “義務としての労働”が多かったわけですが、この年代になるとかなり軽減されます。そうすると新たな自分が前面に出てきて、自分の時間を充実させたいという気持ちが湧いてくるものです。同じ料理をつくるにしても自分が楽しむための料理をつくりたい、今までは行けなかったような場所に行ってみたいというような。
ですから、ある種の義務が減ったとき、というのが自分のライフスタイルを見直すきっかけになるのだと思います。そのときに、自分がやりたいことをやれる場所に住みたい、と思うのではないでしょうか。

ーー

義務としての労働を減らすために、サービスを活用するという考え方もあります。

阪本

この世代はお金にもゆとりが出てきますから、自分たちの理想のライフスタイルを実現するために、ホテルやマンションのコンシェルジュサービスなどを利用するという手もあります。それなりにお金はかかりますが、自分でやらなければいけないと思っていた細々した作業を誰かがやってくれる、というのは大きいですよね。その分自分の時間が充実するというメリットを享受できますから。
何よりサービスを利用することの一番のメリットは、それによって奥さんの負担が減ること。時間が増えてその分好きなことができるので、きっと喜ばれるでしょう(笑)奥さんを思いやれる旦那さんというのは素敵ですからね。

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最後に、人によって理想の住まいはさまざまですが、“充実した住まい”に欠かせない一番の要素は何だと思いますか?

阪本

50歳を過ぎると、自分の時間は有限であることに気づきます。そこで諦めるのではなく、限られた時間の中でどれだけ自分なりのライフスタイルをつくっていくか、いかに充実させていくかをみなさん意識するのだと思います。
一人の時間や夫婦二人の時間を楽しめる空間というのはもちろん大事ですが、そこに共通の趣味を持つ仲閒を呼んだり、子ども夫婦が孫を連れて遊びに来たりなど、人間関係が広がっていくような住まいがあると、豊かなライフスタイルにつながっていくと思います。孫を喜ばせたい、お友達と楽しくおしゃべりしたい、そういう比較的単純で素直な欲求を叶えられる場所が、その方にとって充実した住まいになるのではないでしょうか。

阪本 節郎(さかもと せつお)

1975年早稲田大学商学部卒業後、博報堂入社。プロモーション企画実務を経て、プロモーション数量管理モデル・対流通プログラム等の研究開発に従事。その後、商品開発および統合的な広告プロモーション展開実務に携わり、企業のソーシャルマーケティングの開発を理論と実践の両面から推進。2000年、エルダービジネス推進室創設を推進。2011年春、発展的に「博報堂新しい大人文化研究所」を設立。所長を経て現在統括プロデューサー。著書に『50歳を超えたらもう年をとらない46の法則』(講談社α新書)、「世代論の教科書」(東洋経済新報社、共著)、『シニアマーケティングはなぜうまくいかないのか—新しい大人消費が日本を動かす』(日本経済新聞出版社)ほか。