三井の賃貸レジデンス Park Axis 月島マチュアスタイル

オピニオンインタビュー

VOL.03

PROFILE

塩澤 誠一郎

ニッセイ基礎研究所 社会研究部 准主任研究員

50代以上で
住み替え派が
増えている。

今の家に住み続けるのか、新たな家に引っ越すのか——。50代を迎えた多くの方が、今後の住まいについて一度は考えたことがあるのではないでしょうか。かつては終の棲家として住み続ける人が多かったのに対し、近年は住み替えを選ぶ人が増えてきているといわれます。生活にゆとりがあり、行動的な50代以上の人を「アクティニア」と呼び、住宅や都市政策を研究しているニッセイ基礎研究所 塩澤誠一郎さんに、50代以上の住まいへの意識がどう変化しているのか、伺いました。

April 28 2016
Photo: Katura Komiyama , Text: Kayo Murakami

「自分時間満喫型」から「社会参加型」へ、ライフスタイル志向が変化する。

ーー

住まいについて考えるとき、地域のコミュニティについても気になるところです。アクティニアの人々は、コミュニティに対してどのような考えを持っているのでしょうか?

塩澤

基本的にアクティニアは、好奇心旺盛で行動的な人々なので、人とコミュニケーションをとることが好きな方が多いし、コミュニティに対しても前向きな方が多いです。

ーー

アクティニアの中でも傾向はあるのですか?

塩澤

アクティニアは全体的に自分のライフスタイルを重視する傾向がありますが、その志向をさらに分類すると、「自分時間満喫型」と「社会参加型」に大きく分けられます。
「自分時間満喫型」は、趣味を通じた仲間との交流を楽しみたいという志向がある方。アクティニアの中でも50代~60代前半頃までの比較的若い人々に多くいます。家計にもゆとりがあるし、ようやくできた自分の時間を好きなことに使って、充実させたいと考えている。会社勤めをしながら、一方で趣味にも打ち込んでいるという方も多くいます。「社会参加型」は、地域をよくするための活動などに積極的に参加したい、という志向がある方。60代後半以降で定年を迎えている方が多く、「自分時間満喫型」に比べると家計は少し低めです。
そして、この2つの間にあたる「中間層」が存在します。今はまだ若くて自分の時間を楽しんでいるけれど、もう少し年を取ったら地域活動やご近所付き合いもやってみようかなと考えている方です。

ーー

年齢とともにマインドが変化してくる、ということですね。コミュニティというと地縁型を連想する人が多いと思います。地縁型コミュニティに対しては、アクティニアはどう考えているのでしょうか?

塩澤

比較的年齢が若い「自分時間満喫型」のアクティニアは、共通の趣味を持つ仲間とのコミュニティには積極的に参加しますが、昔ながらのご近所付き合いみたいな地縁型コミュニティにはあまり関わりたくないと思っている人が多いでしょう。しかし、自分がやりたいことをひと通りやって、年とともに少しずつ体が思うように動かなくなってくると、ご近所付き合いや地域社会をよくする活動などにも興味を持ち始め、「社会参加型」アクティニアへとスライドしていく傾向が読み取れます。
ですから、若いうちは自分の好きなことをやって、年齢が上がって地域との関わりを求めるようになったときに、スムーズに溶け込めるような仕組みを持つ住宅やコミュニティがあるといいのではないでしょうか。従来のような地縁型のコミュニティだけではなく、共感型のコミュニティを育む仕組みがあると面白いと思います。

ーー

消費のスタイルにも変化はありますか?

塩澤

みなさん、とても賢い消費者です。自分が好きなものを知っていますし、人生経験が豊富で目も肥えていますから、ちょっと高くてもいいもの、好きなものを手に入れたいという意識が強いですよね。安いビールをたくさん飲むというよりは、プレミアムビールを買って、おいしい料理と一緒に味わいたいよねという気分になる。アルコール、食品、日用品、化粧品など、新しい商品は40〜60代をターゲットにしているものが多いですね。
もう1つ特徴的なのが、この世代は自分の両親の面倒を見るだけでなく、孫の面倒も見ているということ。今までのシニアは子ども家族に労られるお年寄りでしたが、「新しい大人」世代は面倒を見る側なんですね。たとえば、仕事が忙しい子ども夫婦にかわって、自分で車を運転して孫をテーマパークに連れていき、一緒になって楽しんじゃう、というような。自分が主体的に動いて、お金も口も出す。そんな50代、60代が増えているんです。
上質志向で、パワフルに行動する「新しい大人」たちが増えつつあるなかで、これまでとは違う新しい大人文化が生まれ、市場も広がっていくでしょう。

共感型コミュニティが生まれる新しい住宅

ーー

共感型コミュニティが育まれる住宅とは、どんなものでしょうか?

塩澤

地縁型とは違って、同じ趣味を持つ人、同じライフスタイルの志向を持つ人などが共感によってつながっていくのが共感型コミュニティです。子育ての悩みを持つ人、人と交流するのが好きな人などが集まることで、共感によってさまざまな活動が生まれていきます。
その点では、最近増えているコミュニティ型賃貸住宅に注目しています。いわゆる普通の賃貸住宅は、家賃を取れない部分を省いてしまう造りになっているため、居住者同士のコミュニケーションを育めない物件が多いです。当然、住んでいる人の志向やライフスタイルもさまざま。それに対し、コミュニティ型賃貸住宅は、共助の仕組みがあったり、共有スペースなどがあったりして、居住者同士が適度な距離感で付き合うことができます。物件のコンセプトを定めることで同じ志向の人が集まりやすくなり、共感が生まれやすくなるのです。

ーー

物件のコンセプトに共感した人同士なら、求めるライフスタイルも近くなりそうですね。

塩澤

そうです。しかし、アクティニアを対象にした住まい、というだけでは共感は集まりません。分譲マンションにはエントランスロビーなどに豊かな共用スペースを設けている物件が多くありますが、あまり利用されていないケースのほうが多いと思います。ただ場所を用意するだけでは人は集まらないし、つながりも生まれません。
大切なのは、どんな暮らしができるのかというコンセプトがあって、共有スペースがあること。そして、もう1つ、きっかけが必要です。あるコミュニティ型賃貸住宅では、最初は管理会社がイベントを提供していたのですが、次第に住人が自主的にイベントを行うようになり、交流が深まったというケースがあります。きっかけはどんなことでもいいと思います。住人が自然と顔を合わせ、コミュニケーションできるような仕組みがあれば、趣味の合う知り合いが増えるかもしれない。そしたら、今度一緒に出かけようとか、イベントをしてみようかといった話になって、つながりの輪が広がっていく可能性があります。
アクティニアは周りとつながることで自分の暮らしも豊かになると考える人が多い。住人が自分なりのライフスタイルを実現するなかで自然とコミュニティが広がっていく住宅は、住み替えを希望しているアクティニアと相性がいいのではと思いますね。

ーー

アクティニアにとって理想的な住まいは、どんなものでしょうか?

塩澤

アクティニアはそれぞれ個性があり、さまざまなライフスタイルの志向を持っています。彼らが理想とする住まいは百人百様ないので、一言でこういう家がいいとはいえませんが、「やりたいことを実現できる仕組み」を備えていることが必要なのだと思います。
50代以上に限らず、社会全体でライフスタイル重視のマインドが広がってきていますから、今後さまざまなニーズに応える新しい賃貸住宅が増えていくのではないでしょうか。

塩澤 誠一郎(しおざわ せいいちろう)

ニッセイ基礎研究所 社会研究部 准主任研究員。研究・専門分野は都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発。1994年、株式会社住宅・都市問題研究所入社。2004年ニッセイ基礎研究所、2014年より現職 技術士(建設部門、都市及び地方計画)。レポートに、「アクティニアが住まいに求めるもの~首都圏112万のアクティニアに今後住み替えの可能性が~ 」(2014年3月)、「地域の課題に応える賃貸住宅-地域経営的観点からのコミュニティ型賃貸住宅の可能性 」(2014年4月)など。