PROFILE
岸本 裕紀子
1953年、東京都生まれ。エッセイスト。
豊かな人間関係と
今を楽しむ住まいが、
人生を豊かにする。
マチュア世代にとって、理想的なライフスタイルとは? 今、毎年10万人もの女性が定年退社し、新たな人生をスタートさせています。成熟したマチュア世代はこれからの人生をどう考え、どう楽しもうとしているのでしょうか。ご自身もマチュア世代であり、著書『定年女子 これからの仕事、生活、やりたいこと』(集英社)で、定年退職後に自分らしく生きるマチュア世代の女性たちを取材したエッセイスト・岸本裕紀子さんに、人生をより豊かに、自分らしく過ごしていくためのヒントについて伺いました。
マチュア世代の方はそれより上の世代の方とは異なる人生観をお持ちの方が多いと思います。マチュア世代の特徴を、世代の一人としてどのように感じていますか?
私の場合は、高校生のときに女性誌が創刊して、それと共に生きてきた世代です。今よりも雑誌が果たす役割は大きくて、ファッション、料理、インテリアなど、雑誌が次々と新しいライフスタイルを提案していきました。料理にしたって、花嫁修業のような料理ではなくておしゃれなパスタやサラダを作ったり、海外のインテリアブランドが入ってきて部屋を整える楽しみを知ったり……。それまでの形が決まったライフスタイルから選択肢が増えて、自分で好きなものを選び、自分の生活を組み立てていった最初の世代なんです。
また、「キャリアウーマン」という言葉ができて、女性の働き方が多様になってきた世代でもあります。30代でバブルを経験し、世の中の高揚感を体験した。40代でデフレの時代を迎え、新しい価値観を育んできた。ライフスタイルが多様化してきた時代を生き、年齢を重ねてきたのがマチュア世代です。
まさに、人生の楽しみ方を身をもって体験してきた世代ですね。そんなマチュア世代の方々は、これからの人生についてはどう考えているのでしょうか?
シニアと呼ばれるのは嫌がりますよね(笑)。「これから何を楽しもうか」と考えている方が多いと思います。若くはないのでできることは限られるけれど、まだ老人でもないからいろいろできる。昔やりたかったけど諦めたことに挑戦するという人も多いですし、ボランティアなどの社会貢献に力を注ぐ方も多い。今から新しいことを始めても15年続ければかなりのものになりますし、可能性はたくさんあります。
『定年女子』で実際にリタイアした女性たちを取材して感じたのは、女性って目の前の小さな楽しみを見つけるのが上手だなということ。第一線を離れて自分にできることは限られてしまうけれど、チャンネルを切り替えて、今の生活圏の中で日々を楽しもうとしているんです。リタイア後に新しいことを始めて充実した人生を送っている方をみると、素敵だなって思います。
子どもの独立、リタイアなどで環境が変わるマチュア世代。これからの人生を充実させるためには、どんなことが大切だと思いますか?
「健康」「お金」も大切ですが、やっぱり「人間関係」ですね。水をあげないと植物が枯れてしまうように、何もしないと人は離れてしまうもの。だから、自分からアクションを起こして維持することが大事です。自分から声をかけるとか、誘われたらなるべく断らないとか。若い人と交流したり、年配の方から学んだりするのも刺激になると思います。相手の好きなものを覚えていて見つけたらプレゼントするといったことでもいい。たくさんの人と関わって人間関係を広げていくことが、人生を楽しむためには必要だと思います。
ほかに大切なことはありますか?
もう1つ、「住まい」も大切。暮らす場所は、出発点です。どこに住むかでその人の生活圏が決まってきます。働いているうちは、通勤や通学の利便性、子育て環境などを重視して住む場所を選びますよね。でも、リタイアして、子どもが独立したら、その条件が外れます。
そのときに、今の場所でこれまで通りのライフスタイルを続けることもできるし、今とは違う場所でまったく違うライフスタイルを始めることもできる。あるいは、元の住まいは残しつつ、期間限定で住む場所を選ぶという方法もあります。例えば、1年だけ、5年だけと期限を設けて、住みたい場所に住んでみる。この先ずっとというのは不安だけど、期間限定なら長期の旅行のようでワクワクしますよね。賃貸で期間を限定して都会で住んでみる、というのも魅力的な選択肢だと思います。
実際に、住まい方を変えた方のケースを教えてください。
例えば知り合いで、奥様は今まで通り東京で暮らし、旦那さんは田舎に家を借りて畑づくりをしたり、釣りをしたりと自然を満喫する暮らしをしている方がいます。1カ月に2~3日だけ、どちからの家で一緒に過ごすというルールをつくり、それ以外はお互い好きなことをする。こういう暮らし方もあるんだなと思いました。
また、地方にお住まいだった自営業のご夫婦が、会社をたたんだのをきっかけに東京のマンションに引っ越したというケースも。最初は元の家と東京の家を行き来していたのですが、子どもも東京に住んでいるし、楽しみが多いしということで、少しずつ東京の生活へシフトしたそうです。
家を守るという意識は、昔より薄れているのでしょうか?
そうですね。もちろん代々の家を守り、今まで築いたつながりを深めていきたいという方もいらっしゃると思いますが、ライフステージに合わせて最適な住まいを選択している方が増えていると感じます。今は、あこがれだった場所に住む、好きなことができる場所に住むといったことを可能にする選択肢が増えていますから。
自分が好きなものを知り、選びながら生きてきた世代だからこそ、これからの人生も自由に楽しんでいける。私自身もそういう暮らしをしていきたいなと思います。
1953年、東京生まれ。エッセイスト。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、集英社『non・no』編集部勤務。その後渡米し、私立ニューヨーク大学行政大学院修士課程修了。帰国後、文筆活動を開始。女性の人生を扱うエッセイのほかに、政治・社会評論も手がける。『定年女子 これからの仕事、生活、やりたいこと』(集英社)などがある。
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