クラス青山「KURASU AOYAMA」クラス青山「KURASU AOYAMA」

北青山三丁目地区
まちづくりプロジェクト
民活事業 デザイン監修隈 研吾

INTERVIEW

隈研吾インタビュー

青山の地に生まれる新しい住まい、新しい暮らしとは?
建物・景観デザイン監修に携わり、自身も青山に事務所を構える建築家・隈研吾氏に
本プロジェクトへの想いや設計思想について伺いました。
青山の杜と呼応する、
21世紀の住まい。
大通りの裏に出現する別世界。
青山の中でも特別な地だと感じている。
表参道(約610m徒歩8分2019年10月撮影)表参道(約610m徒歩8分2019年10月撮影)表参道(約610m徒歩8分2019年10月撮影)
僕は学生の頃から青山に親しみ、ずっと青山で仕事をしてきたために、一層強く感じるのだと思いますが、この場所は青山の中でも特別なのです。青山通りのある種の喧騒からひとつ入るだけで別世界が出現する。東京の中、世界の中でも特別な場所だと思っています。青山は明治神宮や外苑の鎮守の森に象徴される異次元性をまとっていて、ずっと、不思議な感覚で捉えていました。しかし、このプロジェクトに関わるようになって、この不思議さこそが青山らしさなのだと自分の中で整理されていきました。一方で、明治神宮も外苑も、人が育んできたものですが、西洋的な人工物とは一線を画します。人工という言葉が自然の対となるのではなく、人が生命の大事さを守り続けてきた関係がそこにあるのです。つまり、人工が意味する定義が違う。都市生活の皮一枚めくると、すぐ裏側に自然の神秘が潜んでいる感じを出したいと思いました。
この地の記憶を引き出すように、
丘としてデザインした低層部。
建物完成予想CG建物完成予想CG建物完成予想CG
同時に、青山界隈はランドスケープの造り方が非常に農業的にできています。実は、東京は江戸時代から農業の都市で、高台には武家の地が、谷あいには商業や農業の地が造られ、都市的なものと農業的なものが近接していました。そこで、この地が持つ東京の古い記憶の層を引きずり出すことができたら面白いと考えました。そうして生まれたのが、地面が盛り上がったように、建物の低層部をひとつの丘としてデザインする断面計画です。現在、アメリカの建築界でも建築でランドスケープがテーマになっていますが、どちらかと言うと都市公園のデザインです。生々しい自然を再現するここは全く異なります。農業的な生活において、人は自然がなければ生き続けることができず、だからこそ畏敬の念を持ち続けてきました。住む人には、目で見るだけじゃなく、実際に体を使って自然と接し、向き合ってほしいですね。
自己主張しない高層部。
空に消えていく設計を目指した。
建物完成予想CG建物完成予想CG建物完成予想CG
低層部がまるで地面や森が盛り上がったようなものに対して、高層部は空に溶かし、消し去っていくミニマルな設計を目指しました。今までの都市の造り方というのは自己主張が強く、特に20世紀の都市は自己主張の舞台そのものでした。しかし、僕は都市の中で消えゆく建築というのが21世紀に始まっている気がして、その象徴のひとつに、このタワーはなれると思うのです。具体的には、空の景色に最も溶けやすい素材であるガラスを多用し、そのガラス自身もエッジが消えていくようなシャープなデザインにしました。消えていくタワーこそ、少子高齢化や低成長の時代に生きる僕らが必要するものと感じています。都心の中で自己主張をするタワーマンションとは逆の価値観を持っている人が、ここに住んでくれて、その感覚が伝わるとうれしいですね。
ディテールや素材に至るまで、
生命が感じられること。
代々木公園(約1550m/徒歩20分・2019年10月撮影)代々木公園(約1550m/徒歩20分・2019年10月撮影)代々木公園(約1550m/徒歩20分・2019年10月撮影)
建築の全体の構成だけではなく、ディテールや素材に至るまで青山の杜と呼応し、生命が感じられるものにしています。例えば、日本ではヨーロッパのタイルの質感がベンチマークになっていますが、我々はあえて土に近いレンガタイルを選びました。床の仕上げ材も、その下にある大地や土が感じられるものを選び、今までになかった質感が出せたと思います。低層部の外壁や屋根をはじめとする木材の表現は、青山の杜と呼応する素材にこだわりました。青山の杜、明治神宮、外苑も、杉だけの杜ではないことがすごく特徴的で、全国から多様な樹木を持ち寄ることで、あの原生林のような杜が生まれました。外壁も、屋根も、木材の貼り方は一定ではなく、青山の杜のランダムさを引きずり、すべて寸法が微妙に変え、今までのマンションにない表現を意図しています。
木から離れた都市が、
もう一度、木を取り戻す契機に。
これだけの都心にあって、建物の外に大きく緑を確保できたことが非常に興味深かったですね。多少、建物の前に緑があるタワーマンションは存在しますが、今回は、区画一帯の緑とつながっていて、建物がそのまま周囲の緑に溶けていく様子が面白く、滅多にない条件だと思いました。技術の進歩によって、自然木を使えたことも大きかった。従来は、メンテナンスの問題で自然木は使えず、タワーマンションの低層部で杜を表現するなどあり得ませんでした。20世紀の100年だけ木から離れた都市がもう一度、木を取り戻していく契機になるといいですね。
僕自身、日々、利便性を求めながらも、日常とは違う別世界を望んでいるところがあって、その意味で魅力的な条件に関われたことをうれしく思います。表の世界から数十メーター歩けば、杜の中に逃げ込める、そんな遊び心がある人たちにとって絶好の住処ができたのではないでしょうか。
※建物完成予想CG:掲載の外観完成予想CGは、2019年11月に撮影した航空写真に、計画段階の図面を基に描いた完成予想CGを合成しCG処理を施したもので、実際とは異なります。
INTERVIEW
インタビュー